大納言横丁

俺のブログ

ノック

 

何気ない仕草に意味を持たせるのは良くないのかもしれない。

 

普段は長風呂する事もなく早めに上がることが多いのだけれど、他の家族が先に入ってて後に誰もいない時だとスマホを持ち込んだりしてゆっくり入っている事もある。

その日も同じく家族の寝静まった後に、ゆっったりと湯舟に浸かっていた。そういう時はスマホを置くために湯舟の蓋を自分の体の手前まで閉めて浸かるのだが、その日は良いことが続いた日でもあって、段々気分が良くなり、蓋をコンコンとドラムのようにリズム良く叩きながら鼻歌を歌っていたりした。

 

そこでふと、この蓋を手の甲で叩くのって、まるでドアをノックしてるみたいだな、と思った。妙にテンションが高くなっていた俺は、ヘラヘラしながら「誰か入ってますか〜?」などと言いながら、コンコン、コンコンと蓋を叩いてみた。

…まあ何も起こるわけないか、と思いつつも自分のやった事で少し気味が悪くなっていたため、そろそろ湯舟から上がろうとした時、

 

コンコンコン、と、小さく小気味良い音が、蓋の裏側、湯舟の中から返ってきた。

 

気のせいだ、お湯の跳ねる音か何かだろう、と頭では考えつつも、蓋の裏側から響く音が湯舟の中に反響するのを、確かに身体で感じてしまった。

俺は直ぐに湯舟から上がり、中を見ないようにしながら蓋を閉め、ササッとシャワーで身体を洗うとすぐに風呂場を出た。

 

今思えば、蓋を開けて何もいないことを確かめれば自分の勘違いだと割り切れていたのかもしれないが、あの全身で感じた音の振動が勘違いだとはやはり思えない。そうであれば、何もいないことの方が自分にとっては恐ろしいことのように思えるのだ。

音が確実にあったのなら、そこに何かいなければおかしいではないか。

やまびことなどは違い、音が返ってくる道理などないのだから。

 

それからは、俺が長風呂する事は無くなった。